1葉の写真という数え方

1葉の写真と数える時

写真を数える時には、1枚、2枚という数え方が一般的です。それぞれの写真には、その時に撮影した思いもあれば、時間が経つほどに価値に重みが出てくる写真もあります。思いが強い写真ほどに、枚と呼ぶよりも、もっとふさわしい数え方の単位があります。

それは、葉(よう)です。「1枚の写真」と「1葉の写真」では、意味がかなり違ってきます。1葉の意味を調べてみると、一般的ではない使われ方です。日本語の辞書で最も詳細に書いてあるのは『広辞苑』ではなく、『日本国語大辞典』です。

その『精選版 日本国語大辞典』でさえも、一葉の意味には、「(紙の枚数を数えるときの)一枚」としか書いてありません。葉は、その名のとおりに、木の葉の意味があります。そして、その木の葉のように手のひらに収まるほどの大きさのことを指して葉と言います。

枚は全く違って、鉄板一枚のように、手のひらどころか、かなり大きいものにも使う数え方です。葉には、木の葉のように小さいものに使って、枚のように大きいものにまでは使いません。そして、葉には、木の葉のように小さく手のひらに置けることから、手の中で持っておきたいという意味もあります。

例えば、祖父母が孫の写真を見る時です。その祖父母にとって、その孫の写真がいつまでも手にのせて見ていたい時に、一枚の写真というより、一葉の写真になります。その写真を見る人にとって、その写真が思いを寄せる度合いが強い時です。そして、故郷を懐かしむ時のような感情が出てくる時にも、葉が使われます。

その写真を大切に思えば思うほど、1葉の写真という数え方がふさわしくなります。それでは、デジタル写真の場合にはどうなるでしょうか。1枚の写真も、1葉の写真も、印刷して見ることを前提にしています。デジカメ時代のパソコン閲覧では、1葉の写真はどうなるのでしょうか。

パソコンで閲覧していても、その中で特に思い入れがある写真は印刷することもあります。デジタル写真であっても、フィルム時代と同じく印刷する余地があるので、1葉の写真という数え方で思い入れのある写真に使えます。写真家は、これだけデジタル写真が普及しても、印刷しないオンライン個展ではなく、紙媒体に印刷して個展を開きます。

スマホの写真でも印刷することもあるので、1葉の写真は使えます。印刷することが全くなくなる世の中になったとしたら、どうでしょうか。それでも、1葉の写真という数え方をすると思います。全く印刷する気がなく、パソコンにも転送せず、スマホのみでしか閲覧しない写真であっても、そのスマホ写真を1枚、2枚と数えています。

デジタル写真のみであっても、枚数で数えている現実があります。デジタルフォトフレームに保存した写真も、枚数で数えます。枚という数え方がなくならない限りは、葉という数え方も使われ続けると思います。デジタル写真でも、手のひらに持ちたくて、郷愁を誘うような写真では、1葉の写真という数え方で使われます。

手のひらにおいて眺めていたい写真と、ただの枚数でしか数えない写真では、数え方の単位を変えて使うのが、写真にとっても、日本語にとってもふさわしいと思います。実際には、写真の数え方は枚どころか、1つ、2つと数えられることもあります。

撮影する側にとっては、1葉の写真と数えられるような写真を撮りたいものです。写真家が撮った写真も時代とともに価値が増していって、1葉の写真と呼ばれるだけのものになれば、写真家としても幸せなことです。

1葉の写真は「青春時代の1葉の写真」、「子供時代の1葉の写真」などの個人的な心情の発露からくるものなのに、第三者の写真家が撮った写真に1葉の写真という思い入れがあるのなら、その写真には歴史的な価値に重ねた思い入れがあります。

例えば、牛腸茂雄の『SELF AND OTHERS』、もっと古くは、ルイス・ハインの"MEN AT WORK"の『働く男たち』の1枚、1枚のモノクロ写真は、1葉の写真と数えてふさわしいものです。時代性に芸術性も加わると、その写真たちは、第三者の写真でも、1枚の写真というより1葉の写真と言ったほうがふさわしい場合が出てきます。「写真1葉」とも言います。

太宰治の『人間失格』のはしがきは、「私は、その男の写真を三葉、見たことがある」で始まります。

さらには、地震災害時に被災者が写真を求める心理とはに書いていますが、1葉の写真は、被写体が凍結から解凍へ向かいやすい性格を持っています。芸術写真を撮ろうと思わないで撮った記念写真にこそ、1葉の写真が多いです。

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